筋ジストロフィーの呼吸リハビリテーション
筋ジストロフィーの方向けの呼吸リハビリテーションの内容を解説します。
呼吸リハビリテーションの重要性
呼吸は横隔膜や肋間筋などの筋肉の動きによって行われています。筋ジストロフィーの方は筋力低下により、呼吸運動が低下し、十分な換気ができなくなることがあります。そのため、呼吸筋を鍛えるだけでなく、胸郭の柔軟性を保つことが重要です。
ここでは、以下の3つを中心に紹介します。
- 胸の関節運動
- 肺を最大に膨らませる(MIC/LIC練習)
- 咳を補助する
1. 胸の関節運動
呼吸は、酸素と二酸化炭素の交換を肺で行いますが、空気を出し入れするためには、肺の容器である胸郭(背骨、肋骨、胸骨で構成)を大きく動かす必要があります。
目的
- 胸郭の柔軟性を維持し、肺が膨らみやすくすることで、呼吸を楽にする。
- 関節の動きを保ち、筋肉のこわばりを防ぐことで、姿勢の改善にもつなげる。
推奨される運動
① 胸郭伸展ストレッチ
- 目的:胸郭を広げて、肺を大きく膨らませやすくする。
- 方法:
- 椅子または車椅子に背筋を伸ばして座る。
- 両手を頭の後ろに組む。
- 肘を後ろに引きながら深く息を吸う。胸を広げるイメージで行う。
- ゆっくり息を吐きながら肘を前に戻す。
- 5〜10回繰り返す。
- 注意点:
- 痛みを感じる場合は無理をしない。
- 息を吸うときに肩が上がらないように注意。
② 胸郭回旋ストレッチ
- 目的:胸郭の柔軟性を高め、呼吸筋のストレッチを行う。
- 方法:
- 椅子または車椅子に背筋を伸ばして座る。
- 両手を胸の前で組む(もしくは軽く肩に手を置く)。
- ゆっくりと体を右にひねり、息を吸う。
- ゆっくり息を吐きながら元の位置に戻す。反対側も同様に行う。
- 左右5回ずつ繰り返す。
- 注意点:
- 無理にねじらない、痛みを感じる手前で止める。
- 肩や腰に痛みがある場合は、角度を小さく調整する。
③ 呼吸介助
- 目的:呼吸の補助を行い、胸郭の動きを引き出す。
- 方法:
- 家族や介助者が行う場合は、背中に手を当て、呼吸に合わせて胸郭が広がるのを感じながら軽く押してサポートします。
- 横隔膜の動きを助けるために、みぞおちの下を軽く押さえることで、息を吐く動きをサポートします。
- 注意点:
- 力を入れすぎず、優しくサポートする。
- 主治医や理学療法士の指導のもとで行うことを推奨。
2. 肺を最大に膨らませる(MIC/LIC練習)
呼吸筋の筋力低下により、深呼吸が難しくなり、肺の隅々まで空気を入れて膨らますことができなくなる場合があります。
① MIC練習(Maximum Insufflation Capacity)
- 目的:
- *バッグバルブマスク(アンビューバッグ)**を使用して、自分の肺活量以上の空気を送り込み、肺を最大に膨らませる練習です。
- 肺の柔軟性を保ち、換気効率を改善します。
- 方法:
- バッグバルブマスクを口に密着させます。
- バッグをゆっくりと押して空気を送り込み、肺を膨らませます。
- 息をこらえて、肺を最大に膨らませた状態を数秒保持します。
- ゆっくり息を吐き出します。
- 1セット5回を目安に行います。
- 注意点:
- 必ず主治医に相談し、医療専門職の指導のもと行ってください。
- 過度な空気の送り込みは肺に負担をかけるため、慎重に行います。
② LIC練習(Lung Insufflation Capacity)
- 目的:
- 喉の息こらえが難しい場合、1方向弁を使って、肺を最大に膨らませる方法。
- *LIC TRAINER®**を用いて行うことができます。
- 特徴:
- 1方向弁が喉の代わりをするため、気管切開の方でも実施可能です。
- 注意点:
- LIC練習を始める前に、必ず主治医に相談してください。
- 状態により、行ってはいけない場合があります。
3. 咳を補助する
筋力低下により、咳が弱くなることで、痰を十分に排出できなくなる場合があります。
- 咳が弱いと、肺炎などの感染症のリスクが高まります。
① 咳の強さの測定
- ピークフローメーターを用いて、咳の強さ(ピークフロー)を測定。
- 300L/min以上:正常
- 270L/min未満:咳が弱い
- 160L/min未満:かなり咳が弱い
- 測定結果に応じた対策を行いましょう。
- 必要に応じて、排痰補助装置の使用を検討。
② 咳の補助方法
- MIC練習後に咳をすることで、強い咳が可能になります。
- 介助者が胸郭を圧迫して、咳のタイミングに合わせてサポートします。
- 呼吸理学療法士の指導のもとで行うことを推奨します。
4. 注意点とまとめ
- 体調により行ってはいけない場合があるため、必ず主治医に相談してください。
- 胸郭や呼吸筋に負担をかけすぎないように注意し、無理をせず行うことが大切です。
- 感染症予防のため、清潔な環境で行い、道具の衛生管理も徹底しましょう。